「夫の育休(3)」
2005年12月28日の日の喧嘩を、
私達は生涯忘れることはないだろう。
「いや〜、俺って本当によくやったよ!」
満面の笑みを浮かべて、誇らしげに言う夫を前に、
様々な思いがよみがえり、ついに私は爆発してしまった。
「一人でがんばったように言わないでよ!」
確かに出産後の妻と3歳の娘をかかえ、
夫は炊事や洗濯をしながら
寸暇を惜しんで博士論文を書いていた。
でもそんな夫を不憫に思い、
夫がいない時や、部屋で論文を書いている時に、
私だって洗濯物を干したり、茶碗洗いだって協力した。
そうだ、本当は茶碗洗いなんてしたくなかった。
もしも母が生きていたら、
きっとこんなこと、させなかったはず・・・
そう思うと、亡くなった母を責めている自分が情けなくて、
台所に立つたびに涙が出た。
そんな中、12月28日に訪問してくれた助産師さんの言葉が
私の背中を押してくれた。
「出産した後のことって、女性は忘れないものです。
本能的に動くから、嫌なものは嫌!!なんですよね。
それでいいんです。お産自体本能なんですから」
私の中に溜まっていた不満が一気に爆発したかのように、
助産師さんが帰った後、私は夫に言った。
「私だって大変だったのよ」
自分の気持ちをうまく伝えることができず、
少しずつ、思ったことを吐露する私に、
夫の顔がみるみる変わってきた。
「俺だって、がんばったんだ!」
「がんばってないなんて、言ってないでしょ!
がんばったのはあなた一人じゃない!
一人だけがんばった顔しないで」
「・・・それもそうだ。だから何なんだよ。」
「私だって、本当は・・・」
お互いにうまく説明も理解もできないままの喧嘩が
1時間続いた。
夫は腹を立てたまま、
それでもお腹を空かせる私と子供のために、
皮付き、ぶつ切り野菜のおでんを作ってくれた。
無言のまま夫は「ちくわぶ」を、私は「大根」を、一つ食べた。
すると、それまで怒りをあらわにしていた夫が
小さな声でつぶやいた。
「ごめん」
私もつぶやいた。
「ごめんね」
「腹が減っていたせいもあるんだろうな。
このちくわぶを食べたら、落ち着いたよ。あはは。ごめんな」
「私も・・・ごめん」
育児のための休暇。
それは決して、きれいごとだけではない。
女性は特に産後、ホルモンのバランス・・・
と言ってしまえば簡単だが、さまざまな感情が入り乱れ、
さまざまな思いが交錯し、落ち込んだり、不安になったりする。
赤ちゃんの夜泣きがひどかったりすると、
母親は睡眠不足で、気持ちが不安定になったりす るのだ。
そんな中で、パートナーの力はとても重要になる。
なぜなら、子供は決して一人ではつくれないからだ。
2人に責任があるからだ。
12月28日の夜、私達は、ひと月分の言い争いをした。
この日作ってくれた夫の皮付き野菜たっぷりのおでんは
「怒りのおでん」という名で、
私達の記憶に今もなお、深く残っている。
●このページのトップへ↑
|