岩山郁代(旧姓)の「なひけ?」の話 Vol.3

 

「ねぎ」

昨年8月、母がこの世を去った。

あまりにも突然のことで、
気持ちを整理するのに時間が必要だった。

 

母のいなくなった実家で、
四十九日がくるまでの一ヶ月、
父と共に生活をした。
母は3年ほど前から、認知症を患っていたが、
亡くなる8ヶ月前まで、車を運転し、
運送業の仕事もこなしていた。
優秀な認知症患者だった。

 

亡くなる直前まで、多少の問題行動はあったが、
食事も作り、排泄も入浴もきちんと自分でしていた。

そして・・・突然訪れた死だった。

 

葬式は亡くなった者のためではなく、
残された者の悲しみを紛らわすためのものだ
ということを知った。

 

そして四十九日。

さまざまなしきたりがあるらしく、
姉と親戚が打ち合わせをしていた。

「それじゃあ、精進弁当に、汁物は素麺でいいわね」
・・・・と、親戚。

「素麺に入れる具はしいたけと、ネギでいいの?」
・・・・と、姉。

「一湊はネギを入れるけど、安房は入れないらしいよ」
・・・・と、親戚。

「ええ〜!美味しい方がいいから、ネギは入れるわよ」
・・・・と、強気な姉。

「(姉の勢いに押され苦笑)・・い、いいけど、
  でも安房は入れないみたいよ」
・・・・と、念を押す親戚。

 

そうか・・・、
素麺に入れるネギのことでさえ、
そんなしきたりというものが各集落あるのか・・・。
驚きだった。

 

今では精進弁当は簡単に注文できるようになったが、
私が小学校の低学年の頃まで、
葬式というと、近所が集まって炊きつけをしていた。
台所に女が2人立つと諍いが起きる・・・
と昔から言われているが 、
葬式の時も様々なトラブルがあったらしい。
ちなみに必ず指揮をとるおばさんがいるという話はよく聞く。

 

男どもは祭りだの、葬式だのという時、必ず表舞台に立つ。
裏ではこんな些細なことにも気配りをしなければならない
女たちの苦労や戦いなど、知る由もないだろう。

こんな狭い社会で娘六人を育て、
生涯を終えた母を思うと、切なくなる。
きっと様々な苦労があったに違いない。
愚痴をこぼさず、
いつも笑顔を絶やさなかった母に改めて尊敬の念を抱いた。

そして、親戚の助言も跳ね除け、
強気にネギを入れる主張を曲げなかった姉に、
母の強さを重ね見た気がした。

 

今年の夏、母の1年忌がやってくる。

我が家の汁物にはまた、
素麺にネギがたっぷりのせてあることだろう。

 

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