岩山郁代(旧姓)の「なひけ?」の話 Vol.7

 

新婚生活 in 屋久島 (3) 〜携帯電話編〜

 

夫が屋久島に移り住んできてからほどなくして、
携帯電話を購入することになった。
契約に必要な物を電話で確認した後、
車で20分程の所にあるお店へ向かった。
顔馴染みだった私は、夫が契約をしている間、
店員と雑談をしていた・・・と、その時だった。

「そんなの、聞いていませんよ!
  こっちはちゃんと電話で確認したんですよ!」
気色ばんだ夫の声が聞こえた。
どうやら印鑑がないと、契約が完了できないという話に、
夫が腹を立てていたのだ。
事前に問い合わせたのに、
担当者が「印鑑」を持参してもらうのを
言い忘れたとのことだった。
「困るんですよ!
  事前に問い合わせした時は一言も『印鑑が必要だ』
   なんて言わなかったじゃないですか!!」
イライラし始める夫。

沈黙の末、怒る夫を
「また来ればいいじゃない」と、
無理やり車に乗せて、再び家へ向かった。

「おかしいよ!悪いのはむこうじゃないか!」と、
怒りが治まらない夫。
「分かるよ。確かに悪いのはむこう。
  でも、また来ればいいじゃない」と私。
「往復40分もロスするんだぜ!
  むこうが印鑑が必要だって、
   ちゃんと言ってくれていたら、
    今頃携帯を入手できていたはずなのに!!」

怒りの治まらない夫に、不思議な気持ちになった。
私なら、仕方ないか・・と、諦めて、
往復40分のドライブを楽しむが、
夫はこの40分を無駄な時間と断言する。

2〜3分待てば電車が来るという日常に慣れた
関東生まれ、関東育ちの夫。
そして、一時間に一本のバスが当たり前の屋久島育ちの私。

この時初めて、夫の生きてきたリズムと、
私の生きてきたリズムの違いというものを発見した。

しかし、ここは屋久島。
いくらお店の人が悪くとも、この島で楽しく暮らしていくには
「気持ちの切り替え」が大切なのだ。

たとえ、カビが生えた食品をおいているお店があろうとも。
店員の態度が無茶苦茶ふてぶてしかろうとも。
味が悪かろうとも。
出した服のボタンが取れていたり、
穴が開いていようとも。(クリーニング店)
給油中に車に傷をつけられようとも。(ガソリンスタンド)

都会の場合はお店を選べるが、
この島では数が限られているため、選ぶことができない。
そのため、暴言を吐いたり、感情的になったとしても
その相手と必ずどこかで出会い、
お互いに気まずい思いをするのだ。

「東京だったら・・」
私の話に、納得いかない顔でつぶやく夫。

田舎暮らしの現実を目の当たりにした出来事だったようだ。

 

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